マイホームの夢が「一生の悪夢」に反転した。
デフレ不況と金融危機の元凶である金融機関の「不良債権問題」が、いよいよ大規模な最終処理の段階に入った。このため大手銀行でも破綻する懸念が出てきた。八年以上も担保物件を塩漬けにして、バブルの清算を先送りしてきたツケが、多大な売却損として計上され、「自己資本比率」を2%台まで低下させるからである。
資産デフレの深刻化は、金融ビッグバンによって増幅され、それが必然的に「不動産ビッグバン」を誘発して、マンションの価格破壊となって現れてきた。昨秋から新築マンションの販売現場は「土砂降り」の惨状を呈している。二次取得者は「担保割れ」て買換え不能に陥り、一次取得者層もローン契約に二の足を踏んでいる。「山一ショック」による将来の所得不安が強まったためである。これでは「都心回帰」で新規需要を見込んだ販売合戦も、二割以上の値引きを顧客の耳元でささや「投げ売り合戦」に一変してしまった。これに拍車をかけたのが、ライオンズマンション「大京」の賃貸物件1200戸の叩き売りである。3000万円のものを三分の二の1000万円で外資に売ったのだ。
大京は年間一万二〇〇〇戸の新築マンションを供給してきた業界の最大手である。、それが成約率の急低下から業績が悪化して、今期1152億円の赤字を出し、三和銀行の管理下で生き延びを図っている。これは他のマンション・デベロッパーも、みな同じ状況にある。半分も売れ残れば、造れば造るほど赤字が増える一方なのだ。これがあと二年続けば、面倒をみている銀行も共倒れになってしまうだろう。住宅金融公庫が、基準金利を史上最低の二・七五%に下げても、ものすごい供給過剰が続いているので、六月未の完成在庫は首都圏だけで約二万戸に達している。
大京は今期決算で、1152億円という巨額の赤字を出したが、収益性の高い優良資産を簿価の三分の一で投げ売りすれば、赤字になるのも当然だ。大京に限らず、不動産業界は今年以降の事業計画立案に苦悩している。銀行融資で巨大な投資を続けても、採算に乗るかどうかがまったく不透明だからだ。売れ残りを三分の一で叩き売るのは、どん詰まりの証拠である。事業計画が最初から破綻していたというほかない。こんな杜撰な計画に、金を貸す銀行も哀れだが、それはもう続かない。銀行まで共倒れになってしまう。それは拓銀と東海興業、カブトデコムなどの例をみれば明らかだ。
現在、首都圏には約二万戸近い完成在庫が売れ残っているが、平均簿価を1戸3000万円としても、6000億円が回収できていないことになる。この上さらに貸し込んで、新規マンションを供給し続けることは、資金面からしても無謀である。売れ残るということは「供給過剰」になっているからだ。6000億円の在庫を年度内に換金するには、三分の一とはいかないまでも、半値に近い価格で「損切り処分」するか、賃貸に回すしかない。
それに来期の「土地手当」が難航する。工事費をいくら値切っても、採算に乗るような土地は払底している。それを競争で買い上げていては、赤字を増やすだけで終わる。空前のマンション・バブルとなった第六次のブームも、昨年後半に終焉した。今年は需要構造そのものが、一大転換期に入ったと見ている。山一ショックによる買い控えは一時的かもしれないが、大多数の潜在顧客が長期ローンによる住宅取得に、不安を抱いたのではないか。かっては「マイホーム」が一生の夢だった。
が、今ではこれが「一生の悪夢」に反転してしまった人たちが増えている。取得価格の半値以下になった住居のローン支払いに、30年も苦しむ生活を予想すれば、一生の悪夢だと言うほかない。しかも賃貸のように簡単な住み替えもできない。「先に買った人ほど不幸になる」と言ったが、この先住民族に対して、大京の三分の一叩き売りは、非常なショックを与えたに違いない。3000万円の新しい物件が、1000万円に値下がりしたからだ。
長期ローンは「一生の悪夢」になりかねないから、いま分譲マンションを借金で購入するのは控えたほうが賢明である。マイホーム取得が「一生の夢」ならば、しばらく借家にすんで「待ちの姿勢」で大暴落の推移を眺めて楽しむのもいいだろう。また「投資用ワンルーム」がブームとなっているが、これもリスクが多いから、長期ローンで購入するのは危険である。損益通算などに惑わされてはいけない。デフレのときは、今が一番高い」から、金をできるだけ貯めて、投資用に振り向ける底値拾いのチャンスをうかがうスタンスが大事である。
平成十年七月一日発行 伊藤 友八郎(オーエス出版社\1300)より